tobi_102’s diary

たまに何か書く

青き閃光

 

 

記憶は風化する。だから思い出せる限りのことを書いておく。

 

売店でとにかく目を合わせない人だった。笑うと顔の半分だけ上がってくしゃっとした笑顔になる。予想より声が高くてびっくりする。変なところで喋り方が丁寧になったり突然タメ口になったりする。喋り方が体育会系のノリ。

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2016.8.27 名古屋

海外で売って全日の売店に出していないポートレートを愚連隊興行で出していたので購入。サインを貰いにいったらこっちを見るなり「何で買ったんすかそんなの。買わない方がいいのに」と顔を背けて笑う。
どこかの地方でマスクのキーホルダーを購入。「これ買うと明日起きたら顔が野村になってますよ」と明後日の方向を見ながら嘯く。野村選手、かわいいからいいじゃないですか。言うと、「えー俺は嫌だ」なんて言って口の端を持ち上げる。
リング上で躍り狂っているエース達を売店から眺めながら爆笑している姿に嬉しくなる。はーとんの人形をコーナーでずっと大切そうに持っている姿につい人形を買ってしまう。

SUSHI選手の所属ラストの時、サイン会をしているSUSHI選手の後ろに突然現れてにやにやしながら「SUSHIさん今までありがとうございました!」と声をかける。かと思えばハードヒットで苦戦するSUSHI選手にずっと声かけし続ける。

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2017.1.28 鳩山/友人撮影

写真を撮る時自分一人だと嫌そうに顔をくしゃくしゃにする。タイトルマッチやリーグ戦の前に頑張って下さいと声をかけると「余裕っすよ」と返ってくる。イベントで一人だけお酒を飲んで顔を真っ赤にして、いつも以上に饒舌でご機嫌で、ああこの人、喋るの好きなんだなあ、と。思う。

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2018.9.23 神戸シーバスイベント

 

試合のことは、写真を見返せば、動画を見れば、コメントを読めばいくらでも思い出せる。でも、こういうことって多分どんどん忘れていく。だから書き記す。

 

「復帰したから、ディック東郷選手と戦いたい」
東郷選手のイベントで思わず東郷選手にそれを伝えてしまった。今度の7月に実現する筈だった。もう、一生叶わなくなってしまった。
「ライバルはつくらないようにしている」
そうは言ってもきっと佐藤光留が好敵手であることは間違いないし、運命の相手が鈴木鼓太郎であることは間違いない。本人はきっと嫌がるけど、誰がどう考えてもそうだろう。

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2017.8.4 新木場

北本と有明のシングルどちらも見て、まず最初に出た感想は「ノアの試合だ」だった。全日本プロレスのリングで繰り広げられるプロレスリング・ノアの試合。馬場プロレスの世界に現れた三沢プロレス。北本の試合は激情の試合だった。有明の試合は鎮魂歌だった。プロレスリング・ノアで生まれてプロレスリング・ノアで育った彼等が、フリーランス全日本プロレス所属として生まれ育った場所にさよならを言う姿はどこか物悲しさがあった。でもそういうのって全部巡り合わせで、今は悲しくてもいつか何かに繋がるんじゃないかって思えるからプロレスは面白い。

 

でももう、どこにも繋がらなくなってしまった。

 

多分この先ずっと、永遠に忘れられないことがある。2018年9月12日の新木場大会。
9月1日の丸藤正道20周年記念大会でのvs杉浦・原田が良い試合だったことを伝えたくて売店で声をかける。

 

この間の両国の試合、凄く面白かったです。
ありがとうございます、僕何もしてないですけど。
もっと青木さんと杉浦さんがやりあうの見たかったです。
まあ、うちらが喧嘩売る必要はないしね。
でもファンとしてはもっと2人の絡みがみたいって思ってましたよ。
僕の心は原田のせいで、ああ…俺はいいやってなっちゃったんで。
あー…まあでも、また機会があったら見たいです。
そうですね、鼓太郎が出てる限りは行きません。

 

あんなやつ全日本にいらない。

 

…何度思い出しても、売店でファンに言う言葉じゃない、と思う。でも、こういうところがあの人があの人である所以なのだろう。鈴木鼓太郎という人への強い気持ちと、全日本プロレスへの強い愛と誇りを持っているからこそ出てくる言葉なのだろう。毒を吐く、と言うけれど、内側にあるのは毒というよりも苛烈さだったんじゃないだろうか。それは強さとも言う。強いから言える言葉だ。本当に強い人だった。羨ましいくらいに。

 

どうして私にあんなことを言ったのか。確かめたくてもこれはもう、ただの思い出の一つ以上のものに成り得ない。

 

「◯◯さんが昨夜ご自宅でお亡くなりになりまして、主治医の方にお話をお伺いしたいのですが」
電話口で、警察の人にそう言われたことがある。その前々日、受付でいつも通り挨拶を交わした穏やかで可愛いおばあちゃんだった。今日は通院日。もしかしたらひょっこり現れて、遅れちゃったわ、なんて笑った顔を見せてくれるかもしれない。そんなことをぼんやりと思いながらロッカーの荷物を片付ける。

昨日会った人が今日いなくなる。昨日まで生きていた人の荷物を片付ける。ご家族が取りに来るまで、もう誰も着ることのない服が事務室の奥に置いてある。そんなことが何度もあった。その度に何度も、不思議だな、と思った。昨日までいたのに、今はもういない。ほとんど毎日顔を合わせていたのに、もう今日から一生、世界中探しても会うことはない。

 

部屋を見回してみて、不思議だな、と思う。サイン入りのTシャツ。タオル。カレンダー。キーホルダー。金平糖が入っていた箱。キャンディが入っていた缶。いつもサインを小さく書くから、「大きくお願いします!」とお願いしたことを思い出す。不思議だ。こんなにいろんな思い出があるのに、あの人はもういない。もう一生、世界中探しても会うことはない。試合を見ることはない。言葉を聞くことはない。あの人の存在の、これからがどこにもない。

 

ご冥福をお祈りします、と言いたくない。TLに流れてくるその言葉とあの人の写真がどうしても結び付かなくて、見るたびに「この人は誰なんだろう」と思ってしまう。
10カウントゴングなんて聞きたくない。あと30年後くらいに、あの人がリングの真ん中に立っていて打ち鳴らされる10カウントゴングを聞く筈だったのに。
言いたくない聞きたくない、いないことを認めたくない。認めなくても現実が変わらないことはわかっている。今これを書きながらずっと泣いているから、頭ではわかっているんだと思う。現実味がなかったら涙すら出ないと思うから。今は涙しか出てこない。頭ではわかってる。でも、理解するのと納得するのは違う。

 

なんて、こんな言葉を並べたって結局は全部自分勝手で自分のためのわがままだ。こんなのは自分を守りたいだけだ。自分の弱さに甘えているだけだ。私はみっともなくて惨めな人間だ。だから強い人に憧れるんだ。だから、あの人を見ていたかったんだ。

 

プロレスの試合の、グラウンド技術を面白いと思ったのはあの人の試合を見てからだった。初めて全日を見に行った時、あの人はヘビー級の中にジュニア一人だった。小さいのに凄いな。ぼこぼこにやられてるけど立ち上がっていく。凄いな。ヘビー級と戦うジュニアの試合って面白いな。いろんなきっかけを作ってくれたのはあの人だった。かっこいいな。もっと試合が見たいな。コメントが辛辣でドキドキする。この人のことをもっと知りたいな…。

 

そういうの、何一つ伝えたことがない。馬鹿だ。いつかなんてないのに。あの人が佐藤光留の挑戦をのらりくらりとかわしていた時私は、いつかなんてないのにどうして受けてくれないんだ、と怒っていたのに、自分がそれをわかっていなかった。いつかなんてないんだよ。自分の未来すらわからないのに、自分以外の未来なんてもっとわからない。
後悔したくないから行動するなんて本当に自分勝手な理由だと思う。対人だとますますそう感じる。でも、人生は今一度きりしかないのだ。私だって明日があるかなんてわからない。それでも今はある。今、気持ちを伝えることができる口がある。なのにあの人にはもう、今すらない。もう何も伝えることができない。だからこれはただの独り言だ。

 

私はこれからも全日本プロレスを見に行くし、ハードヒットを見に行くし、佐藤光留の試合も鈴木鼓太郎の試合も見に行くし、あの人と関わりのあった多くの選手の試合を見に行くだろう。その度にあの人の存在を感じて、同時にどうしようもない喪失感に苛まれるのだろう。
でもきっとそれは、どこにも何も感じられないよりよっぽど幸せなことだ。あの人が残したものを、紡いだものを、あの人抜きに紐解いていくことは不可能なことかもしれない。それでも考えることはやめたくないし、目を背けることはしたくない。あの人のことを考えて考えて怒ったり笑ったりしていた日々を無にはしたくない。肯定的なことも否定的なことも何もかも全部、あの人のことを考えていたという事実があの人の存在を裏付ける。

 

あの人の居場所はリングの上だった。だから私は、これからもリングの上にあの人を見続ける。あの人の試合が見たい。でもそれが無理ならせめて、あの人の存在の証を見続けたい。

 

ここまで書いて、ふと、「どうしてこんなものを書いているんだろう?今度試合を見に行くのに」と思ってしまった。勝手に殺すなって怒られちゃう。そう思って手が止まって、またTLを見て現実を思い出す。割りきるなんてまだ無理だ。こんなことで泣きたくない。こんな文章書きたくない。あの人の試合を見て感動して泣きたい。あの人の考えを、言葉を、行動を紐解いて、未来に繋がる文章が書きたい。

 

言いたいことは沢山あるけど言葉にすることが難しい。認めても認めなくても苦しいけど、自分が楽になる方に逃げるべきじゃないのはわかってる。もうやめます。もう疲れた。泣いても現実は変わらないし、自分の弱さに嫌気がさすだけだ。早く強くなりたいよ。なるために、これを書き終わらなくちゃいけない。

 

好きでした。大好きでした。貴方の試合が全て好きでした。強い言葉が好きでした。文句を言いたいところも沢山沢山、沢山あったけど、言ったって歯牙にもかけられないのだろうと思わせる強さが好きでした。鋭い視線が、気迫のある咆哮が、歯を食い縛る顔が、全てが好きでした。プロレスラー・青木篤志が大好きでした。

 

天国でもプロレスしたり山登りしたりキャンプしたりツーリング…は暫く控えて欲しいけど、自由に過ごしてください。やりたいことを全部やって、どうか楽しくお過ごしください。いつかまた、絶対に貴方の試合を見に行きます。現世では叶わなかったけど、「俺が次の渕正信になる」って言っていたからにはグーとかパーでレフェリーと揉めたり、ドロップキックをすかされたりボディスラムで腰を痛めたりするくらいまでプロレスをやり続けてください。

その頃にはきっと、観客席に私も座れるだろうから。

 

素晴らしい試合の数々をありがとうございました。貴方のプロレスを見られて幸せでした。貴方が残したものを通して貴方のことをいつまでも追いかけ続けます。

さよなら、またね。ありがとう。

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2019.5.20 後楽園

それと、最後に一つだけ。

いつかダイナマイトキッドと試合をする時は、最前列のチケットを買うので絶対に教えてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019.6.5 故  青木篤志選手へ捧ぐ

 

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2019.6.9 追記

プロレスリング・ノア後楽園大会/三沢さん10周忌を観に行ってきました。

 

 

 

隣でこのやりとりを見ていました。潮崎選手の笑顔、本当に朗らかで何の翳りもなくて眩しかった。彼等が喧嘩別れであったことを思うと本当に、言葉にできない気持ちになりました。

 

そして、最後に言ってくれた「そうですね、かっこつけすぎずに」という言葉。約束。

 

ああ、存在が未来に繋がった。そう気付いた瞬間また涙が止まらなくなってしまった。

 

潮崎選手が これから先、してくれるであろう飾らない言葉でのマイクは、あの人の存在の証になる。あの人が言って、友人が繋いで潮崎に届いて、未来に繋がった。

ノアのリングに残されたあの人の存在の証。小さなことかもしれない。勝手な解釈かもしれない。けれど、見つけられて良かった。嬉しかった。

これから少しずつ、こうやって見つけて大事にしていけばいいんだな。少しだけ、救われました。潮崎選手、そして大好きな友人。本当にありがとう。本当に。